歯周病とは、歯周組織に炎症を起こした疾患です。歯周組織とは、歯根の表層組織のセメント質と歯茎と言われている歯肉、そして歯根を覆っている骨組織の歯槽骨、その歯槽骨とセメント質を繊維質の層で強固に結びつけている歯根膜の4つ組織からなります。
また、歯周病を急激に進行させる要因として、咬み合わせの問題があります。咬み合わせが悪く特定の歯に咬む力が集中したり、歯が数本抜けて残っている歯に負担がかかると、その負担過重の歯が急激に歯周病が進行してしまいます。
歯周病を悪化させる要因として、歯と歯茎に合っていないかぶせ物や、歯垢を付きやすくする歯石、歯と歯の間に食べ物が、頻繁に詰まってしまうこと(食片圧入)、また口が渇き、細菌が増えてしまう口呼吸(鼻でなく口で呼吸する習慣のある人)などが、上げられます。
歯周病の原因は、歯と歯茎の境目(辺縁歯肉)に付着した歯垢中の細菌です。その細菌が毒素を産生し歯周組織に炎症を起こすわけです。炎症が歯肉に限局しているのが、歯肉炎です。炎症が歯肉に留まらず歯根膜を破壊し歯槽骨を吸収した状態が、歯周炎です。進行してくると歯が動きはじめます。最後は、歯が抜けてしまいます。
歯周病を進行させる全身的な要因として、糖尿病や白血病などです。また、精神疾患や高血圧の薬でも歯周病を進行させます。
歯周基本検査
歯周ポケットと炎症の有無、歯の動揺度の検査をそれぞれの歯について行います。下の図は、歯周ポケットを計っている図です。1歯、1歯、歯の周りを全周計り、最も深い所を記入していきます。歯周病が進行すると、通常ポケットが深くなります。
X線検査
レントゲンで、歯の周りの歯槽骨の吸収の程度や、形を見ます。歯周病が進行すると骨が吸収してきます。また、歯根膜の幅や、骨の密度を見ます。急性期には歯根膜の幅が、広がります。
スカンジナビア方式による歯周病の分類
歯周基本検査とX線検査を基にして、北欧で使われている分類方法で歯周病を、分類していきます。まず、炎症が有るか無いかで、分類します。炎症があればそれを、歯周炎か歯肉炎かにX線を使い分類します。歯肉炎ならばGingivitisと診断します。歯周炎ならばPeriodontitisと分類します。また、歯周炎はX線の歯槽骨の吸収程度によりLevisとGravisuに分類します。さらに、骨の吸収の形により、複雑なものはComplicateと分類していきます。日本の歯周病の分類方法より、明確なため当院では、この方法で分類しています。
バイオタイプによる歯肉の形の分類
歯肉の形は、大きく2つに分かれます。それは、シン・スキャロツプと、シック・フラットと言われる2つのタイプです。歯の形や歯の埋まっている歯槽提の厚さ、歯の歯槽に対する位置関係、歯肉の厚さなどにより、この2つのタイプに分かれます。シン・スキャロップタイプは、歯肉が薄く歯周炎になると歯肉が下がります。また、歯ブラシの使用方法の誤りや、選択の誤りなどでもこのタイプの歯肉は、下がります。それに対してシック・フラットタイプは、歯周炎になると歯肉が腫れて、深い歯周ポケットを作ります。この2つのタイプの歯肉に発生した歯周炎は、同じような治療をしてはいけません。それぞれのタイプにあった治療をしていきます。
炎症の形による歯周炎の分類
炎症の形により、歯周炎を繊維性歯周炎と浮腫性歯周炎にわけます。繊維性歯周炎は、見た目の歯肉はあまり腫れてないが、ポケット検査で、歯周ポケットがありポケットからの出血もすくない状態の歯周炎をいいます。このタイプの歯周炎は治療に対する反応性が悪く、なかなか治らない場合が多いです。それに対して、浮腫性歯周炎は、見た目の歯肉が腫れていて、歯周ポケット検査で、出血も多い状態の歯周炎をいいます。kこのタイプの歯周炎は治療に対する反応性が良く、見た目ではかなり早期に改善されます。
咬み合わせの診査
歯周炎を悪化させる咬み合わせは、歯を横にずらした時に、強くあたる歯に負担がかかり、その歯に歯周病が急激に進行する場合があります。その様な歯は、すこし咬み合わせを落とします。その他、奥歯でちゃんと咬んでいるか、顎をまえにずらした時に、前歯があたっているかどうかなどを、診査します。
歯周病の治療
スケーリング
歯周病の診査で歯周病と判定された場合、歯石が付いていれば、まずは歯石除去をおこないます。この処置のことを、スケーリングといいます。当院では超音波スケーラーという器具で、処置していきます。歯石中にはそれ程細菌は含まれていませんが、歯垢(プラーク)という細菌の塊が付きやすくなるために、除去する必要があるわけです。歯石は付きやすい人と、付きずらい人がいます。それは唾液の性状や量などによると思われます。
プラークコントロール(インフェクションコントロール)
プラークコントロールとは、口腔内の細菌の塊である歯垢(プラーク)を取り除き炎症をおさえる方法をいいます。当院では口腔内の状態を調べて、プラークの付きずらい環境に指導をして、実際のプラークの除去の方法を、教えていきます。
口腔内の状態と指導 まずは、唾液の量、能力,PH 唾液中の細菌の数を調べます。唾液には、口の中をきれいに洗い流してくれたり、細菌を殺してくれたり、異物を除去してくれたり、カルシウムで再石灰化してくれたりなど、いろいろな働きで口の中を守ってくれます。この唾液の量が少なかったり、能力が低かったりすると歯周病や虫歯になり易い訳です。また、口の中のPHが低いと、常に歯が脱灰されやすく、虫歯になりやすい環境だということです。さらに唾液中の細菌の数を計ることによって、より歯周病になりやすいかどうかが、わかります。このデータをもとに食事指導や、プラークの除去の方法を考え、定期健診の必要性を指導していきます。
プラークの除去の方法 診査の項目で歯肉の形や炎症の形によって、歯ブラシを選び、それぞれにあった歯ブラシのしかたを教えていきます。また、歯周ポケットは殆どの場合、歯と歯の間が深くなるので、歯間ブラシや、フロスなどによる歯間清掃を指導していきます。また、Gravis以上の進行した歯周炎には、薬物を使った洗口(うがい)も指導します。このような方法で、プラークを除去していきます。
歯面の着色の除去
歯面に付いているタバコやコーヒーなどの外来性着色物を、専用の機器を使い除去します。この処置により歯がかなり綺麗になったように、見えます。
PMTC
PMTCとはプロフェショナルメカニカルトゥ-スクリーニングの略で、専用の器具を使い、患者さん自身では除去しきれないしきれない歯垢を除去したり、歯面を綺麗に磨きます。最後にフッ素を塗って終了します。この処置により長いこと付いていた取りきれていない歯垢を、取れるわけですから、歯周病の進行防止にもなりますし、フッ素によって虫歯の予防にもなります。また、歯面の着色の除去後に、この処置をやると再着色しずらくなります。また、口腔乾燥症にもよく行います。
再度歯周基本検査 (2度目の歯周基本検査)
スケーリング、プラークコントロール、PMTCなどの一連の処置が終了したら、1週間プラークコントロールを実践してもらい、再度、歯周基本検査を行います。初めの基本検査と比較して、どの位改善されたか評価していきます。
歯周治療の方針の決定(非外科処置か外科処置か)
2度目の歯周基本検査を基に、非外科処置か外科処置にするのか歯周治療の方針を、決定します。当院では、スカンジナビアの分類のComplicataのみ、歯周外科処置をおこないます。歯周外科処置はエムドゲインというエナメルマトリックス蛋白を使った、再生療法をおこなっています。歯肉切除や歯肉剥離といった手術は、やっていません。現在はBiologicalWidthが確定されているため、私はこういった手術は意味がないと、思うからです。非外科処置はデブライドメントという処置か、Co2レーザーを使った歯周処置かを症例に分けて治療していきます。
デブライドメント
2度目の検査で歯周ポケットが5ミリ以上ある場合で、炎症が有り繊維性の歯周炎の症例に、この処置を行います。無麻酔でポケットの中深く(歯肉縁下ポケット)歯垢、歯石をとり、清掃していきます。この処置の利点は、自然な形で歯肉が引き締まり、炎症が消退しポケットが改善されます。また、歯肉があまり下がらないため、シン・スキャロップタイプの症例にも有効です。ただし、歯肉が腫れている浮腫性の歯周炎には、あまり有効ではありません。
Co2レーザーを使った歯周処置
2度目の検査で歯周ポケットが5ミリ以上ある場合で、炎症が有り浮腫性の歯周炎の症例に、この処置を行います。歯肉の腫脹が大きい時や急性症状の時は、麻酔下高パルスでポケット内にCo2レーザーを照射します。歯肉の腫脹が小さい時は、無麻酔低パルスで照射します。Co2レーザーには、蒸散という作用があるため、歯肉の腫れがかなり消退します。またレーザーはかなりの高熱が発生するため、ポケット内の細菌を無菌的にすることができます。しかし、繊維性の歯周炎でスキャロップタイプの症例には、歯肉か下がり冷たいものがしみたり、審美的にも悪くなるため、適応外です。
仮固定
歯周治療中、動揺している歯は仮固定をしていきます。それは、動いている歯をそのままにしておくと、歯周炎に咬み合わせの問題が加わり、さらに動揺が増すからです。仮固定をして歯の動きを止めてやれば、咬み合わせの力にかなり抵抗力を、増します。また歯が動かなくなるため、よく咬めるようになります。
咬み合わせの調整
歯を横にずらしたときに強く当たっている歯や、すこし動いている歯は、咬み合わせをすこし落とすことにより、その歯の負担を和らげます。
3度目の歯周基本検査
歯周治療終了後、また歯周基本検査を行います。2度目の歯周基本検査や1度目の検査と比較していきどの位改善されたかを、見ていきます。ここである程度の結果がでたら、歯周治療を終了します。
永久固定
歯周治療終了後、仮固定をはずしてもまだ歯が動揺している場合は、永久固定をしていきます。よく動揺歯は、炎症が無くなれば歯は固定され動かなくなると言われていますが、私は急性期の歯には当てはまると思いますが、慢性期の歯には当てはまらないと思います。この様な歯にはなるべく早く永久固定を施します。あまりゆっくり様子をみていると、そのうち歯が抜けてしまうからです。治療終了後は殆ど歯が動いていない状態にしなければいけません。永久固定をすることによって咬み合わせの力に抵抗し、歯を永くもたせます。
リコール
定期健診
治療終了後、症状にあわせて4ヶ月、6ヶ月ないしは1年の定期健診を受けてもらいます。それは当院では殆ど非外科的に歯周治療を行っているために、深い歯周ポケットが残っている場合があるからです。その様な歯周ポケット内のプラーク(細菌の塊)は、歯ブラシ、フロス、歯間ブラシ、洗口剤などをつかってプラークコントロールをしても取れません。そこで、当院にて定期的に歯周治療を受けていただき、プラークコントロールではとれないプラークや歯石を、取っていき歯肉の健康状態を保ちます。定期的な歯周治療を受けないと、必ずといっても良いほど歯肉が腫れたり、歯が動いてきます。ですから、定期健診は歯を残すためには、必要不可欠な処置であると思ってください。